女王様の図書室


2005年2月に読んだ本     

1月は結構充実していました。量も読めたし、結構良い作品が多かったようです。
2月はしょっぱなから、「白夜行」「幻夜」という大物。量、質ともいきなり飛ばしました。
他の作品はいかに?


 白夜行  東野圭吾               8.6カラット
 新作「幻夜」を読むにあたって、前作を読んだほうが絶対良いという王様のアドバイスに従って、2回目の「白夜行」。前読んだ時もかなりのインパクトで、読み応えがあったけれど記録していないと詳細は結構覚えていないものだ。読み返して東野圭吾の力を再確認。決して口には出来ない悲しい過去を背負った桐原亮司と唐沢雪穂の子供時代からをたどるストーリーだ。無人化したビルの中で殺されていた質屋の主人である桐原亮司の父親。浮かんでは消える容疑者。しつこく犯人を追いつづける刑事の捜査は苦戦しながらも犯人に近づいていく。
 この物語は亮司と雪穂との悲しい生き様がはっきりと浮き彫りにされているにもかかわらず、二人の心情を綴る言葉は一度も出てこない。様々な登場人物の視点で文は綴られていて、時に亮司の友人の視点で、時に雪穂の夫の視点で、時に刑事の視点でと次々代わるにもかかわらずただの一度も主人公である二人の「気持ち」は文章では描かれないのだ。それなのに全体を通して二人の悲しく切ない絆と苦しみがひしひしと伝わってくる。これに気づいた時東野圭吾の凄さをしみじみ感じた。脱帽。東野圭吾の最高傑作といっても過言ではないだろう。

 幻夜   東野圭吾 7.9カラット
 前作「白夜行」の続編とも言えるこの作品。もっとも連続して読まなければそうとは気づかないかもしれない。阪神淡路大震災のドサクサで叔父を殺害した水原雅也とそれを見ていた新海美冬、美冬は「二人が幸せになるために」と様々な苦難を乗り越え、のし上がっていく。銀座の宝石店の異臭騒ぎ、ストーカー事件、曽我孝道の失踪。すべてが深海美冬と水原雅也につながっていく。そして白夜行の時と同様、執拗に二人を追いつづける刑事が一人。刑事の加藤は少しずつ真相を突き止めていく。
 「白夜行」と違うのは、「白夜行」には二人の行動の裏に悲しい愛と信頼があったのに、「幻夜」にはそれがないところだ。いや、あるように思って読んでいたのに最後に何もない事に気づかされ愕然とした。そして、「白夜行」に悲しい愛があったと思ったのも私の勘違いだったのかと、すべてに裏切られた気持ちになる。「白夜行」に劣らない力作、大作なのだが、読後感がイマイチ。人間不信になりそうだ。だただた深海美冬が恐ろしく、夜の闇の中にスポットライトを浴びてサイボーグのような年齢不詳の美女が妖艶に微笑む姿が頭に焼きつくだけなのだ。ああ、女っておそろしい。続編はあるんだろうなやっぱり。この終わりかただと。

 未練  乃南アサ 6.5カラット
「凍える牙」の音道貴子シリーズの短編。とはいえ、これは番外編と言うような感じで、事件→解決ではなくて、事件を抱えた登場人物の人となりを浮き彫りにしていくような作品群だ。最初それがよく分からなくて「え?犯人は?」と思ったのだが、こういうのも悪くない。「未練」「立川古物商殺人事件」「山背吹く」「聖夜まで」「よいお年を」「殺人者」の5編。中でも「山背吹く」は前作の長編「鎖」で傷ついてぼろぼろになった音道貴子が自分を取り戻していく話なので、このシリーズをこの先も楽しみにしている私としては欠かせなかった作品だ。実は前の短編「嗤う闇」はあまり好きじゃなかったんだけど、これはミステリーでなく人を描いたものと考えるとこういうのもあってこそ、長編の音道貴子シリーズが楽しめるのだなーと妙に納得。ちなみに音道貴子は私の中では天海祐希なのですが。ドラマの「凍える牙」でやってたので。それほどイメージにずれはない気がするのですがどうでしょう?
あ、それと「未練」を読むと辛いカレーがきっと食べたくなるので、読んだ後すぐにカレー屋に走れる時間に読むことをお勧めします。

刑務所の中 花輪和一 6.6カラット
拳銃不法所持により3年の実刑を喰らった漫画家が、獄中生活を再現した「獄中実録漫画」。すみません、また漫画で。結構楽しめました。「辛い刑務所」とか「反省、悔恨の日々」とかではなく、淡々と獄中生活がかかれています。部屋の中の様子や、体操の仕方、作業の様子、面白かったのは食事の内容が朝、昼、晩と細かく毎日記録されているところ。ご飯は麦飯なんだけどおかずとか結構いろいろあってなんか、ウチの夕飯より手がかかっているかも。トホホ。監獄以下か・・・あたしの作るメシは。「リンチ」とか「イジメ」とかは別になく、本当に淡々と毎日が過ぎていく感じで、ひょっとしてこれなら私も3年ぐらいいいかも、思ってしまった。獄中で借りられる本が昭和30年代40年代発行のものばかりだったりするのは勘弁かなー。

神様からひと言 荻原浩 7.0カラット
 大手広告代理店から食品メーカーに転職した佐倉涼平は新製品決裁会議でキレてしまって販売促進課からお客様相談室へ異動させられる。お客様相談室は「リストラ要員の強制収容所」「島流し」といわれている。そこにいる「とんでもない人たち」とのかかわりや、とんでもない「お客様」とのやり取りを面白く軽快な文章で描いていく。
楽しく読める。とっても。が、あまりに私が知りすぎている業界なので、「そんなの絶対ありえない」事や「リアルすぎて笑えない」事があって何だか素直に楽しめなかった。ホント、お客様相談センター(私の会社ではこういう名称でした)って会社の隅っこの狭いところに押し込められていた感じだったなー。(今は新しくなったそうなので違うと思うけど)とか。新製品を決定する会議って確かにじーさんだらけだったなー。とか。でも普通の人は楽しめると思います。なので食品メーカーの人以外にはお勧めできます。

黒と茶の幻想 恩田陸 7.8カラット
恩田陸の代表作と言われる長編ミステリー。ミステリーと言っても殺人事件があって犯人を捕まえるというわけではない。学生時代からの男女計4人の友人同士が屋久島に旅をする。(Y島としか出てこないけど明らかに屋久島)4人はそれぞれに別々の連れ合いがいるのだが、連れ合いは残して一人ずつで旅に参加するという設定。
物語には無数の小さな美しい謎が出てきて、それを旅の中で解き明かしていく。時には悲しい謎、苦しい謎、残酷な謎。謎を解きながら4人は傷つき、あきらめ、何かをふっきっていく。物語は4つのパートに区切られていて、1つのパートが一人の視点から描かれるようになっている。それぞれが抱える問題、悩み、傷が浮き彫りにされていく。
本当に良く出来ていて、小さな謎解きまで緻密で美しい。1つだけちょっと不満なのは最も大きく重要に思えた謎が3人目のストーリーで解けてしまうところ。最後まで引っ張って欲しかったなー。




                                


3月
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